「文藝春秋3月号・荒地の家族 佐藤厚志著」//芥川賞受賞作品全文掲載。震災から10年経過後の家族の形

今回は地元仙台出身佐藤厚志著「荒地の家族」を読みました
佐藤氏はワタシの卒業した大学の後輩に当たりますのでちょっとだけ鼻高々です
但し学部は違いますし、年の差も相当あるので個人的には存じ上げていません
【あらすじ】
坂井祐治は40歳、宮城県亘理町でひとり親方として造園業を営んでいる
妻の晴海は一人息子啓太を残して厄災(東日本大震災)から2年後インフルエンザからの高熱で亡くした
祐治が仙台に行くと言うと、小学生の啓太も漫画の新刊を買いたいのでいきたがっているのれ連れて行くことにした
喫茶店に啓太を残し、祐治はデパートの受付に社員の呼出を依頼した
ただデパート側は本人が祐治に会いたがらないとして断ってきた
何度言っても、最後にはその上司が来て会わせる訳にはいかないと断られた
その会いたいという人物が祐治の再婚相手知加子である
先妻が亡くなってから6年経った頃町役場に勤務する同級生に紹介された
彼女はその同級生の元同僚だ
ある日家に帰ったら知加子が家を出て息子の啓太が茫然としていた
理由は祐治は知加子が外で働くことを了解せず、流産による心労もたたって離婚したいとのこと

70歳になる篠原六郎は祐治の父の元部下
結婚を機に実家のある亘理町に家を建てた
六郎の息子が祐治の小中学の同級生明夫である
明夫は塗装屋として就職したが、その後群馬の自動車工場に期間工として勤務していた
具合を悪くして最近亘理にもどり、先輩に誘われ中古車の販売会社に勤めている
明夫は酒癖が悪く奥さんと離婚し、奥さんが実家がある浜吉田に戻ったところ厄災に子供とも吞み込まれ、一ヶ月後に遺体が見つかったとこのと
祐治は高校卒業後商品やサービスを売り歩く仕事はしたくなかった
たいした考えもなく造園業を選んだ
応募した「西島造園」には採用されたが、現場を仕切る専務はパワハラ
入社して度々いじめに遭ったが、入社3年目の頃機嫌を損なわして殴られ、頭突きされ病院に運ばれた
車酔いのような状態が続き何度も嘔吐したが医者の診断は脳しんとう
それからしばらくして祐治は西島造園は円満退社し独立した
明夫からはあんな職場をよく続いたなと驚かれた
そして「自動車中古会社を首になりそうだ」と言い
「ここは居心地が悪い」と・・・
職場のことを言ったのか地元のことを言ったのかは祐治にもわからなかった
ある日、祐治が夜釣りに行ったとき明夫ともう一人が海岸の雑草の中から歩きながら出て来るのを見かけた
何かの密猟ではないか?と気になった
翌日町役場に勤める友人に名前を隠してその旨を話したらナマコの密漁ではないか、石巻じゃこれをシノギにしている連中がいるらしいこと、一回潜ればン十万稼げるようだと言われた
しばらくして、六郎に会ったとき、六郎は明夫の行動を不審に感じていること話していた
祐治が六郎に「明夫の調子はどうですか」と体調を聞いたつもりが六郎は「あいつは酒癖が悪いから自動車会社から退職を薦められているみたいだ、それにこの間は一晩中出払っていて、しかも釣りなんかしたこと無いのに釣り道具を車に積めていた」
祐治は「この前、明夫を見たときははじめは明夫だとわからなかった、後ろ姿から彼だとわかったが太っていたし、髪の生え際はかなり後退し、目尻や額は漁師のようにしわが深く刻まれていた」と言う
久しぶりに祐治は明夫をスーパーの酒売場で見た
片手に杖を突き、もう一方にカゴを持ち、缶ビールをカゴに放り込んでいた。
明夫は具合が悪そうだった。ほおの肉はそげ落ち、皮膚にたるみが出てきている
目は落ちくぼみ、頬骨の下が黒ずんでいた
数日後明夫が警察に捕まったとの知らせを受けた
密漁を疑われ張り込んでいた漁師等に取り押さえられ連れの男と共に警察に突き出された
明夫が不調を訴えたせいで連れの男が海へ潜らず明夫を病院へ運ぼうとしてたところだった
六郎は祐治に「明夫は病院へ行き検査入院している、その結果で治療のやり方をきめるようだ」
結局仙台の厚生病院へ週に一度行き、ガン患者として放射線治療を受けることになった
そして六郎は「半年」と言った
半年が余命なのか、通院なのかは祐治は聞けなかった
6月のある日祐治が不在の時、明夫が自宅を訪れ母の和子に対し、サクランボを箱ごと渡しみんなで食べてくれと置いていたとのこと
祐治は帰宅後、悪い予感がして明夫の自宅に行ったところ警察のパトカーが赤色灯を付けていた
明夫の母(六郎の妻)によると明夫は首を吊ったとのこと
明夫はこの世にはいなくなった
その年の7月が終わろうとしているとき、暴風雨が地域を襲った
土砂降りの中祐治は明夫の家族の墓石に手を合わせに行ったところ、眼下に見た阿武隈川が畑を飲み込み恐ろしい勢いで暴れ回っていた
丸森町の堤防決壊も危ぶまれるほど
祐治はようやく車で自宅まで戻った
戻ると啓太が祐治の顔を見てスプーンを落とし、口を丸く開けていた
それからげらげら笑い出した
洗面所に行って鏡を見ると髪の毛が真っ白だった
もみあげも、無精ヒゲも
(終)
【感想】
主要人物だけのあらすじだけ書いた積もりでしたが長々となってしまいました
本文にはその背景(東日本大震災など)や鬱々とした友人知人関係、それにともなう克明な背景が描写されており気落ちする場面も多々ありました
震災の場面よりも、別な面から家族が崩れてくる重たい小説と感じました(間接的には震災の影響も大きい)
私も含め被災地の人達は震災に関する書物を最近はあまり読みませんね
あの悲惨な出来事を思い出すのも嫌だという人もいるし、様々な書物が出版されたり映像化されているのでもう見飽きたという人もいるからだと思います
最後に書かれていた祐治の髪の毛が真っ白だった場面は何事かと考えていました
ストレスで髪が白くなると言われていますが、この場面は墓参りの時暴風雨でドロもかぶりそれが乾いて白く見えたのだと自分では納得しました
題名は「荒地の家族」ですが、作者は唯一の息子啓太が伸び伸びと育ってほしいと書き加えたのだろうと思います
次回は同じく仙台在住の伊坂幸太郎さんのようなユーモアある作品も期待しています
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イラストはフリー素材をお借りしています
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